ある園の芋ほりの日。
子どもたちが土を掘るたびに、
小さな幼虫が顔を出しました。
ひとつ、ふたつ……
気づけば数えきれないほど。
「全部園で飼いたい!」
S君は胸を弾ませて言いました。
S君は虫が大好きで、
園でも毎日ていねいに
お世話をしている虫たちがいます。
だからこそ、そのまっすぐな言葉には、
“かわいいから飼いたい”だけではなく、
“ちゃんと育てたい”という責任感もあります。
ところが、
その言葉を聞いた女の子たちは
少し表情を曇らせました。
「でもさ……前に飼ってた子、
死んじゃったでしょ。
また死んじゃったら、いやだよ。」
以前育てていた生き物が亡くなり、
園庭に埋めてお別れした寂しさを、
まだ大切に覚えていたのです。
その気持ちもまた、子どもたちのやさしさ。
さらに話し合う中で
「じゃあ今いる生き物を逃がして、
この幼虫を飼おうよ」
という案が・・・。
そこで保育士が、
「みんなのお父さんやお母さんが、
“小学生になったらもう育てるのやめるね〜”
って言ったらどう?育てるって、
最後まで責任があることなんじゃないかな。」
子どもたちに“ダメ”と言うのではなく、
自分たちで考えるためのきっかけを渡しました。
子どもたちは真剣に考え、話し合いを続け、
「全部」ではなく「数匹だけ」を
飼うことに決めました。
その瞬間、S君の目には涙があふれました。
自分の願いが叶わなかった切なさと、
みんなの気持ちを理解した納得とが、
幼い心の中で交差し、揺れていたのでしょう。
でもその涙は、悲しみだけではなく、
“ひとつ成長した証”のようにも見えました。
実はこの日、
S君は「必ず虫が見つかる!」と信じて、
朝から自宅の虫かごを持ってきていたのです。
帰りには、自分で選んだ幼虫を
その虫かごに入れ、
お迎えに来たお母さんと一緒に嬉しそうに
帰っていきました。
その後ろ姿を、
お母さんはほんとうにやさしい表情で
見守っていました。
いろんな人のたくさんの“やさしさ”が重なり、
心がほっこりする出来事でした。